大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

岡山地方裁判所 昭和52年(行ウ)5号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

被告の本案前の主張について判断する。

一<証拠>によれば、原告金甲山観光産業株式会社は、昭和五二年一一月三〇日現在、取締役和田穣ほか一〇名、監査役磯野光義ほか二名の役員を有し、岡山市中畦四三五番地和田穣が昭和五一年一〇月八日代表取締役に就任し、同月一二日その旨の登記を経たことが認められる。本件訴状において原告会社代表取締役と表示されている岩切務こと岩切勉(以下単に岩切という)が代表取締役である旨の記載は同号証中にはなく、他にこれを証する書面はない(仲裁判断に関するものについては次に述べる)。

二岩切が自己を原告会社の代表取締役であると主張する理由の要旨は、前記第二の三のとおりであるが、本件訴状とともに、仲裁人高瀬三郎の昭和五一年一二月二五日付仲裁判断書(前記乙判断)、その原本寄託書、昭和五一年九月二〇日付「取締役会議事録」と題する書面、右同日の臨時株主総会議決に対する無効確認等の訴提起がないことの証明書等が提出されていることからみると、岩切としては、右書面等が右主張に副い、自己の代表権限を証するものであるとの見解を保持していることが明らかである。

三しかしながら、仲裁判断を基礎づける仲裁契約とは、本来民事上の紛争を訴訟手続によらないで第三者に判断させこれに服従することによつて紛争を解決する旨の合意であるから、仲裁の対象たる権利関係は、一般的に私人が自由意思で処分(和解)し得る性質のものであるとともに、具体的にも、当事者がこれを処分する権限を有することが必要であると解せられる。一方、株式会社の少数株主による株主総会招集につき、裁判所の許可を要するとした商法二三七条二項の規定は、株式会社の性格や社会公共的機能に鑑み、国家の後見的監督作用を定めたものであつて、右は強行法規であり、右許可の手続は非訟事件の性質を有する。したがつて、仲裁判断をもつて裁判所の許可に代置し得ないことは明らかであるから、仮に原告主張の甲判断がそれ自体有効になされたとしても、これに基づき招集された株主総会は、裁判所の許可がないため招集権限のない者によつて招集された不存在のものであり、右総会における議決もまた不存在というほかはない。よつて、甲判断をもつて岩切の代表権限を基礎づけることはできない。

また、株主総会決議無効確認等の判決にいわゆる対世的効力が認められるのは、裁判所において訴訟事件として審理、判断されたことに基づくものであるから、乙判断によつて、前記不存在の株主総会決議が有効に存在するに至るものでないことは言うまでもない。

四以上のとおり、岩切を原告会社の代表者と認めることはできず、その代表権限を証する書面の提出もないから、本件訴は訴訟要件を欠き不適法である。そして、同人の前記主張及びその提出にかかる書面等に照らすと、同人は他にその代表権を基礎づける事実を主張立証する意思のないことが明らかであるから、この点につきさらに補正を命ずる必要は認められない。

(田川雄三 浅田登美子 坂本倫城)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!